やっかみの風・17
ガチャガチャガチャと、典子は腹立たしそうに自分の食べた食器を洗ってざるに放り込み、そのまま、ダイニングの椅子に座ってテレビを見ていると、二人が帰って来た。
「ただいま」
と、千紗が屈託なく言った。
「お帰りなさい」
と、典子も、千紗の可愛い声につられて、屈託を忘れて返事した。
「着替えは後にして、飯食おう。腹減った」
と、喜久夫が入ってきて、流しで手を洗って、冷蔵庫を開けようとする。
「私がしてあげるわ」
と、典子は立ち上がって食卓を整えた。
千紗は洗面所で手を洗って来て、
「いただきます」
と、席に着いた。
「今日の買い物は得したなぁ」
と、喜久夫が千紗に話しかけた。
「そうよ、二割引が三割も引いてくれたのだもの」
と、食べながら千紗は喜久夫を見つめた。
「指によく似合っていたし」
「そう? 私、本物ははじめて。キクオありがとう」
千紗はしなを作って喜久夫を見上げている。
典子はあてられっぱなしのような気がした。早く居間に入ろうと思いながら、何を買ったのか気になった。
「指輪買ったの?」
と、千紗に向かって聞いた。
「ええ、来月お誕生日だから、誕生石のサファイアの指輪プレゼントして貰いました」
「それは、よかったわね」
と、言いながら、典子は夫が何も買ってくれなかったことを思い出していた。
「高かったでしょう?」
「いや、本物と言っても、ランクがあるんじゃないか。そんなでもなかった。三割も引いてくれたし」
「そう」
そこで、典子は立ち上がって、トイレに行って居間に入った。
喜久夫が母の日にプレゼントしてくれたことがあったか。一度もなかった、と、典子は思う。死んだ夫だって、私のお誕生日なんて覚えてもいなかった。プレゼントなど、一度も貰わなかった。それだのに千紗は喜久夫にサファイアの指輪を買って貰っている。
千紗は綺麗だ。それに若い。それに、男に甘えるのが上手だ。喜久夫を見るときのあの甘ったれた眼。自分は甘え上手ではなかった。夫には、他の女の存在が大きかったから、甘えても駄目だっただろうが、男はいくらでもいるんだから、片っ端から甘えてみれば、もっといい結婚が出来たかも知れない。でも、この器量の悪さでは、千紗のようにはいくまい。無視され続けた夫から、たった一つの宝物、喜久夫を授かったことだけは、感謝している。でも、もう少し自分を認めてくれる男と結婚したかった。などと、思っているうちに、興奮して頭がぐらぐらし、典子は畳の上に横たわってしまった。










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