2006年10月15日 (日)

「流れ行くミモザの旅」

ミモザは、元興に出会った最初の結婚が、仲人口に乗せられて、条件ばかりをみていた結婚であったということの反省は持っていた。寂しさから、本当の恋をつかんだと、有頂天になっていたが、つかんだものを、手のひらを開いてみれば、ごみ同然のものになっていたという、苦しい経験もした。そして、そのごみ同然のものにも、まだ、真実が望めるのではないかと、一抹の期待を捨てきれない自分の不甲斐なさも、自覚していた。その上にまた、松岡青年の若さと率直さに惹かれ、その父親に会おうとしている自分は、もう一度間違った選択をしているのではないかと不安にもなる。けれど、周りを見渡したとき、自分の年齢にあった妻のいない独身男性はひとりもいなかった。ミモザがシングルだと知って近づいてくるのは、妻帯者ばかりだった。どんなにすばらしい男性でも、竜道のときのことが恐怖心を誘い、自ら離れていくばかりだった。

二週間後の日曜日、ミモザは派遣事務所に無理を言って、大安で忙しい日に休暇をとった。松岡が指定した場所は、ミモザが竜道との逃避行に失敗して、泣いて別れた喫茶店のあるホテルの十九階の喫茶室だった。仕事の関係上、どうしてもその喫茶店の前を通らなければならないとき、つらさから、小走りに走るのだったが、指定の場所を変えてもらうわけを話せる筈がなく、承諾した。

その日行ってみると、松岡親子が先に来て、テーブルで待っていた。ミモザが近づいて行くと、二人は立ち上がった。

「お待たせして申し訳ありません」

「いえ、こちらが早く着き過ぎたもので・・・。さっ、お掛けください」

と、如才なく父は手で椅子を指し示した。

 全員が座ると、松岡青年は、

「青山さん、父です」

 と、隣の席の父を手のひらで指し、

「お父さん、こちらが同僚の青山さんです」

 と、言った。

「初めまして。青山でございます」

「お名前はかねがね息子から伺っております。僕はこのようなもので」

と言って、ポケットから、名刺入れを出して、名刺をミモザに渡した。

「お父さん、商談じゃないのだから…」

と、松岡青年ははにかみながら微笑した。

「いやいや、まあ。ところで、バイトでは息子がご迷惑をかけていませんか?」

「いいえ、こちらのほうが息子さんには助けてもらっていますの。椅子運びとか、とてもよく、手伝ってくれます」

「そうですか。それは感心だ」

「ぼく、そろそろライブがありますので、行きます。青山さん、あとはよろしく」

「はあ」

 松岡は、青年らしく身軽に足早に去って行った。

 

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